コミュニケーション能力と学び(覚え書き)

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■『エモーショナル・ブレイン』 ジョセフ・ルドゥー、松本元(訳)

 近頃、「情動」(いわゆる「感情」)のメカニズムについて論じている本を読みあさっています。

 そのうちいくつかピックアップしてみますと、次の3冊などが有名どころではないでしょうか。いずれも90年代半ばに続けて出版されたものですが、日本語の翻訳が出版されるまでにかかった年数に、かなりの開きがあるのに気づきます。

・『生存する脳 心と脳と身体の神秘』アントニオ・ダマシオ(1994)→(翻訳2000)
・『EQ~こころの知能指数』ダニエル・ゴールマン(1995)→(翻訳1996)
・『エモーショナル・ブレイン 情動の脳科学』ジョセフ・ルドゥー(1996)→(翻訳2003)

 ゴールマンの『EQ』はたいへん読みやすく、そのことも「EQ」ブームの一因となったのかもしれませんね。難易度からいえば、次に易しいのはダマシオの『生存する脳』で、ルドゥーの『エモーショナル・ブレイン』が最も難解です(私自身、まだ消化しきれていません…涙)。

b0046050_21215378.gif 『EQ』と『生存する脳』のほうは、主に、社会的存在としての人間が、後天的に備える情動反応を扱っているのですが、『エモーショナル・ブレイン』は、動物としてのヒトが進化の過程で築いた生物学的機能としての先天的な情動反応を扱っています。

 「情動」といっても色々ですが、私の関心はとくに「共感」と呼ばれる情動反応にあります。ある程度までは生得的な部分があるとはいえ、人生の経験が、記憶として蓄積され、それがイメージとして引き出されることによって、「共感」という情動反応が起こるのだとしたら、やはり「後天的」な部分が大きいのでしょうね。ですから、どちらかといえば、『EQ』や『生存する脳』のほうが参考になっています。

 けれども、『エモーショナル・ブレイン』のルドゥーには、研究者としての姿勢に「共感」を覚えました。彼はこう言っています。

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 脳内には情動系が一つではなく、多数あるかもしれないのだ。(中略)
 もし私が正しければ、どのように情動が脳で発現するかを理解する唯一の方法は、諸々の情動のうち一つずつ研究することである。もしもいろいろな情動系があり、この多様性を無視するなら、われわれは脳の情動の秘密を決して理解することはできない。
(p.125, 129)
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 この文章の「情動」という部分を「コミュニケーション能力」に置き換えてみてください。そうすると、それはそのまま、研究者としての私の立場になります。

 「コミュニケーション能力」というのは、今や流行ことばとなったので、いろんな人がいろんなことを言っていますが、結局のところ、一つずつ丹念に研究していかなければ、全体像には近づけない、というのが私の考えです。

 ちなみに、『エモーショナル・ブレイン』は難しい本ですし、高価(3400円)なので、安易にお勧めできませんが、たいていの図書館は所蔵しているのではないでしょうか。

 この本の「訳者あとがき」の最後には、こう記されています。

 「訳者のひとり松本元氏は、本稿脱稿後の2003年3月9日に急逝された(編集部)。」

 「最初から最後までこの翻訳の完成を主導した」という松本氏にとって、文字どおり、命をかけた翻訳だったのでしょう。

 一生に一冊でいいから、そういう本を書ける研究者になりたい、と願っています。
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by tomac | 2004-10-25 21:22 | コミュニケーション能力って
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