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コミュニケーション能力と学び(覚え書き)

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■『ホームレス中学生』を読みましたよ

b0046050_1602655.gif筆者の田村裕さんによると、ただ思いつくままに書いたそうですが、何も考えずにこれだけの物語を組み立てたのだとしたら、天性の才能でしょうね。文章の稚拙さに対する辛口コメントを見かけたこともありますし、技巧的なことをいえば、もっと完成度を高めることはできるだろうと思うけれど、この作品についてそういうことを言うのは無粋でしょう。純粋に「楽しい一冊」です。

ただ、この本を教材として授業で取り上げたいと思ったのは別の意図からでした。

昨年度、「レポートの代筆という不正行為」の問題と向き合って以来、私の中に一つの問いが生まれました。人によって倫理的な価値判断の基準が違うのは自然なことだと思うけれど、では、人はいったいどこに善悪の判断基準をおくのだろうか?という問いです。心理学の本も読んだりして自分なりに勉強はしていますが、たぶん、本質的なところはもっとシンプルなのではないかなと考えていて、その意味で、一つのこたえを示してくれた一冊でもありました。

小学校5年生で最愛の母親を亡くし、中学2年生でホームレスになるという状況に置かれたら、誰だって投げやりになるでしょうし、最悪のシナリオは容易に描けます。でも、同じような、あるいはもっと過酷な環境に放り出された子どもは大勢いるはずなのに、なぜ彼はこんなにもまっとうに生きることができたのか。それは多くの愛情深い人たちが彼を献身的に支えたからです。ではなぜ、その人たちは彼に手を差し伸べたのでしょうか。私はそのヒントを次の一節に見出したような気がしました。

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 そんなことを思い出すと、ますます腹が減る。
 草にも飽き、ダンボールが食べられないことをも知り、お金を探しても見つからず、空腹に限界を感じたその日、まだ昼間でお兄ちゃんが働く深夜までかなりの時間があったが、何かの間違いでお兄ちゃんが昼からコンビニに居ないかと、フラフラ足を運んだ。
 もちろんお兄ちゃんは居なかったが、僕の望んでいる食べ物はいっぱいあった。
 パン売り場の前に行き、よだれを垂らした。体力の限界がきてパン売り場の前にしゃがみ込んだとき、店の人から死角になっていた。
 こんなに腹が減っているのだから一個ぐらい盗ったってバチは当らないだろうと、いけない考えが浮かんできた。かなり葛藤した。
 お兄ちゃんの働く店だからという考えは一切浮かばず、ただ罪を犯すか犯さないかで迷っていた。
 腹の虫と理性が戦っていた。
 そのとき、お母さんの顔が浮かんだ。
 もしお母さんが見ていて、そんなことをしようとしていると知ったら、どんな顔をするだろうか。
 それを考えると、とても盗む気にはなれなかった。
 腹の虫が負けた。
-----(pp.24-25)-----


仮に、パンをとって食べていたとしても、誰も彼を責められないでしょう。むしろ、数時間もしゃがみつづけたあげく、最後まで手を出さなかったということのほうが不思議なくらいですが、そうさせなかったのは、ひとえに、思い出の中の「母親の存在感」ですよね?

それが誰なのかは人によって違うと思うけれど、極限状態に置かれたときにふんばることができるとしたら、それはそういう人の存在感から来るのではないか?と思い始めています。なぜなら、よりどころとなるものを持たずに、ただ自分の意志だけで苦痛と向き合い続けるには、私たち人間はあまりにも弱く、もろい存在だと思うから…。
by tomac | 2008-04-18 16:46 | コミュニケーション能力って
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