コミュニケーション能力と学び(覚え書き)

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■対話デザイン2007 → これでいいのか? 大学教育

大学では学生たちが自分の志望するゼミを選んで申込書を提出する時期です。それに先立ち、私たち教員はオフィスアワーという時間を設けてゼミの紹介をするわけですが、毎度のことながら、何をどう伝えるべきか、とても悩みます。

さて、今日の対話デザインですが、担当のゼミチームは昨日の時点で私から、「5人もいながら、どうして一人だけががんばって、彼をサポートすることができなかったの?」というダメだしを受けて、夕方5時半からもう一度やり直すことになりました。けれども、今朝の授業でチームが見せてくれたのは、深く鋭い洞察の込められた素晴らしい演劇でした。

b0046050_13355491.gif潜在能力」というものを実感するのはこういうときです。人は極限状態に追い込まれ、それを乗り越えたとき初めて、学びの喜びを実感できるのだと思います。対話デザインを通して、いつもそういうドラマを見せてもらっていますが、独り占めするのはもったいないくらい、よくできた物語です(どんでん返しとオチがある)。ノンフィクションですが。

誰とでもそういうドラマを無条件につくれるか?と問われたら、こたえは「NO」です。そこには「信頼関係」という、非常に難しいけれど、必要不可欠な条件があります。これがなかったら、対話デザインのような繊細なプロジェクトはすぐに崩壊してしまいます。こう見えても内心は、ゼミ生がいつ「もうやめた!」「こんなことはしたくない!」と課題を放棄するかと冷や冷やしていますから。

それでも、あきらめずに最後まで踏ん張ることができるのは、私がゼミのメンバーを信じ、ゼミのメンバーが私を信じてくれているからなのです。

そう考えると、担任としての私がゼミ生に求めるのは、知識や能力ではなく(そんなものはあとからついてきますから)、私という人間をどこまで信頼できるのかということではないのかなと気づいた次第です。そのきっかけを与えてくれたのが次の申込書でした。これを読んだとき、「ああ、そうか、自分が求めていたのは、これだ」と素直に思いました。

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私は牧野由香里先生のゼミに参加する事を希望致します。志望理由は簡潔に言えば、これまで大学で受けてきた講義の中で牧野先生の[授業]が最も深く印象に残っており、大きな興味をもったということです。その理由としては、①先生の講義に取り組む姿勢に感銘を受けたこと。②毎回の講義のテーマについて自分自身が深く‘考えさせられた’事。③先生のスピーチ能力に感銘を受けたこと。が挙げられます。

まず①についてですが、私が受けたこれまでの講義はそのほとんどが失望すべきものでした。それは講義内容如何とは全く関係のないところ、要は「教える姿勢」というものを講師陣に全く感じなかった事に起因します。大学の目的が教育と研究にある事は十分に理解していますが、それでもやはり、教壇に立つべき人間は「‘物事を教える’ひいては‘人を育てる’姿勢と理念」がなければならないと私は考えます。その中において、牧野先生の講義に対する態度は、物事を教えようとする姿勢が強く、またその為の準備と工夫に時間を割き、実践していると感じました。

今回の[ゼミ]を選ぶ時に私が真っ先に考えたことは、‘(何を学ぶにしても)人を育てる能力に長けた先生の下で学びたい’という思いでした。そして、これまでの講義の中で、その能力を最も強く感じた牧野先生の下で学びたいと考えました。(以下略)
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批判は承知のうえで、上記をあえて紹介したのには理由があります。日本の大学では若者の学力低下だけがことさら強調される一方で、大学教員の指導力不足の問題は相変わらずオブラートに包まれたままです。誰もがわかっているのに、誰もその問題と正面から向き合おうとはしない。

ただ、そういう私自身も、教育実践が研究業績と直結しなかったら、もっと手を抜くでしょう。授業は適当にこなして、一本でも多く論文を書こうとします。たまたま教育が研究につながる私はラッキーでした。また、自分は常に、研究者としても指導者としても一流でありたいと願っていますが、そもそも双方の両立をめざすことができるのは、24時間を自分だけのために使えるからでしょう。その意味でも恵まれています。結局、個々人が人生観に応じて妥協点を見出すよりほかないのかもしれません。

本当は、こういうことを考えずに生きられたら、それが一番楽なのだろうと思いますが、それだけはできない性分のようです(笑)
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by tomac | 2007-10-31 13:45 | 牧野ゼミ(対話デザイン)

■対話デザイン2007 → ひさびさの対話デザイン

まきのゼミ恒例の対話デザイン・プロジェクトが本格的に動き始めました。このブログの最後の関連記事は昨年度の春学期(5月)のものですから、ちょうど体調の異変を自覚し始めた頃です(●こちら●)。

あのときは対話デザインどころか、自分の講義さえままならず、7月にお休みをいただく直前はもう立っているのがやっとでした。受講生にもゼミ生にも本当に迷惑をかけてしまいましたが、それでも現在卒業研究に取り組むメンバーたちの進捗は例年よりもスムーズです。先輩たちが残してくれた積み重ねはやはり大きいですねー。

そんなわけで、いろいろありましたが、またこうして授業で受講生とゼミ生と一緒に対話をデザインしていく楽しさやしんどさを共有できるのは、ありがたいことだな~と思います。今年でゼミは第4期生になりますが、過去3年間の失敗から学んだことを活かして、今回は講義内容や対話のつくり方を全体的に見直しました。今のところ、それがうまくいっているように見えます。

b0046050_17544611.gifたとえば、今日のチームは、昨夜遅くまで残ってくれただけあって、私の講義より聴く価値があるんじゃない?と焦ってしまうほど(笑)、意義深い(受講生への)フィードバックをしてくれました。一方、受講生は受講生で、私がつい熱く語ってしまうほど(笑)真剣なまなざしで耳を傾けてくれています。こういうときは、授業のあと、高揚した気持ちを静めるのに数時間かかるんですよ。

もちろん、学期は長いですから、うまくいくときばかりではないだろうと思いますが、とにかく、私自身が受講生やゼミ生と議論を重ねることの楽しさをじっくり味わうこと、それが何より大切なのだということを実感しています。
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by tomac | 2007-10-24 18:19 | 牧野ゼミ(対話デザイン)

■学生に助けられる

若者と関わることの本当の醍醐味は、時間が経ってからでないと、
わからないものなんだなあ…と、しみじみしています。

-----[お久しぶりです]-----

ご無沙汰してます。卒業生の□□です。
先日、遂に就職先が決まったので報告したいと思い、
連絡させていただきました。

なかなか苦戦することもありましたが、
なんとか第一志望の○○市役所に合格し、
来年の四月から働く事になりました。

去年は公務員試験の勉強の影響で、
満足に卒論に取り組む事が出来ず、
ゼミの活動でも迷惑をかける事が多々あったと思います。
本当に申し訳ありませんでした。
また、牧野先生のご理解には感謝したいと思います。

現在はフリーターの様なもので、時間も余裕があるので、
もし何かOBとしてゼミの活動で手伝える事があれば
是非やらせていただきたいと思っているのですが、
どうでしょうか? また、ご連絡お待ちしています。

体にお気をつけてがんばってください。

-----


-----[おめでとう!]-----

□□さん、連絡ありがとう。よかったよね~!

ちょうど今はオフィスアワーのシーズンで
就職のことについてきかれたりもするけど、

「力があっても思い通りにならない場合もあるし、
どのゼミにしたから就職がどうこうとはならない」

というような話をしながら、

□□さんはどうなったのかな…?

と思っていたところでした。

とにかく、念願がかなって本当によかったです。
今にして思えば、とても賢明な決断でしたよね。

どんな職種についても、クリエーターでいることは続けられるし、
その点、市役所の公務員のような硬くて安定した仕事なら、
家族をきちんと支えながら、自分のやりたことも続けられるわけで、
本当に【自分の人生に対して責任感のある英断だった】と、
僭越ながら、ふりかえっています。

まさか、□□さんのほうからそんなふうにいってもらえるとは
思いもよらなかったけれど、そういうことなら、
ぜひお願いしたい仕事があります!

といっても、ゼミの活動というより、最近立ち上げたばかりの
研究プロジェクトに関わる仕事なのですが、もちろん、
場合によっては、ゼミのメンバーに出演依頼をする、など、
ゼミ活動とリンクすることも可能でしょうね…。

ぜひお願いしたい、と思うのは、
「議論の十字」の概念をわかりやすく解説する、
アニメーション教材の制作です。

私のイメージとしては、化学反応のしくみについて解説するような、
よくある理科の動画教材に近いのですが、

あまり堅苦しいものではなく、面白おかしくて、
見ていてあきないけれど、原子と分子の結合とか、
化合物が生成される様子とか、あるいは、
以前つくってくれた「完璧十字」と「不完全十字」とか、
そういう、いくつかのパターンをストーリー仕立てで
再現する教材をつくりたいと、ずっと思っていたので、

絶妙のタイミングで、□□さんのほうから
声をかけてもらえるなんて、願ってもないことです。

できる範囲で、謝礼もお支払いしたいとは思いますが、
これについては、あまり期待しないでください(^^;

ただ、作品が出来上がったら、共同作品として、
授業中はもちろん、学会などで正式に発表したり、
というような公表の機会はつくれると思います。

いかがでしょうか?

-----


-----[ありがとうございます]-----

そうですね。
今、思ってみれば自分でも一番の判断だったと思います。
ずっと地元にいられるのも大きいですし。

それで議論の十字の教材作成の話ですが、
僕としても、自分のゼミ活動の集大成として
願っても無い話です。
卒論に関しては消化不良の思いがあるので…

では一度、詳細を伺いに大学へ行きたいので、
時間のある時を教えていただければ行きたいと思います。

-----


彼のほかにも、腕の立つ留学生が、システム開発を
手伝ってくれることになりました。

学生に助けられる、とは、こういうことをいうんですね。

議論の十字」を学んでいったゼミ生や留学生なら、
安心して任せられますから…
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by tomac | 2007-10-18 09:52 | プロジェクトいろいろ

■情報教育は「新しいワイン」

b0046050_10591372.gifフィンランドとの共同研究でご一緒することになった松下慶太さんの近著を読ませていただきました。仕事をお願いする以上、その人がどんな立ち位置から研究されているのかを少しでも知りたかったので…

てゆーか、メール私語―オトナが知らない机の下のケータイ・コミュニケーション
松下慶太 (2007) じゃこめてい出版


内容については読んでからのお楽しみということで、くわしい言及は控えますが、個人的な感想をひと言で表すなら、情報教育は「新しいワイン」であることを、軽やかなテンポで、わかりやすく解説してくれている一冊ではないでしょうか。

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ちなみに、「新しいワインは、新しい皮袋に」という格言をご存知ですか?

新旧の確執」を表すたとえですが、実はこれ、聖書の一節に由来してるんですよ。古い皮袋は伸縮性が乏しいので、新しいワインの発酵に耐えられず破れてしまう、というたとえを用いて、宗教上の古い習慣に囚われた人たちに対する批判が語られる場面にでてきます。

このたとえを用いるなら、情報教育の理念は「新しいワイン」です。それに対して、「学校」という文化はあまりにも「古い皮袋」… といっても、さかのぼれるのはせいぜい明治時代までですが… なので、なかなかうまく行かないんですね。

ここでいう、「学校」という文化とは、物理的・政治的・経済的な制約にがんじがらめの社会的空間、といえるかな…。

それでも、様々な制約の中で、できることを一つひとつ地道にしている人たちをたくさん知っています。

ただ、自分がめざすものはあくまでも、「新しい皮袋」をつくること、ですので、たとえどんな批判にさらされようと、自分の中の優先順位ははっきりさせなければ・・・と思う今日この頃です。

フィンランドと日本の仲間をつなぐ共同研究プロジェクトは、まだ産声をあげたばかりですが、とても夢のある「新しい皮袋」づくりなので、いろんなチャレンジに苦悩するときもあるだろうけれど、前を向いて行きたいです。
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by tomac | 2007-10-14 11:05 | プロジェクトいろいろ

■フィンランド・レポート(2) → 十字の反応と効果

しばらく中断していたフィンランド・レポートを再開しますね。話が前後しましたが、9月半ばの国外出張の報告シリーズです。今回は講演の裏話など…

b0046050_17112823.gifb0046050_17121869.gif
いきなり「議論の十字モデル」を紹介するのは唐突すぎるかと、十字を青く塗ってみたり、ヘルシンキで見つけたフィンランド国旗ストラップを披露してみました。

b0046050_1712067.gifストラップで笑いをとった(とれた)あたりまでは和やかな雰囲気が続いたのですが、「映像クロス」を紹介し終えた頃から、それまで笑顔で耳を傾けてくれていた人たちの顔から表情がなくなっていくのがわかりました。案の定、講演後の質疑応答では会場がシーンと静まり返ったままで、何の反応も得られないか?(汗)という状況で、

うーん… 実は日本でも、いつもこんな感じなんです。フィンランドの人なら、十字を見慣れてるかなと思いましたが、国旗は役に立ちませんでしたね~

と、思わず一人つっこみをしてしまいましたが(笑)、それに対して、ある方が教師の立場からこう応えてくれました。

私は学生の気持ちがわかりましたよ。私たち教師は何か説明をするとすぐに質問やコメントを求めてしまうけれど、時間が必要なんですね。あまりにも新しい概念に触れたら、自分の中で時間をかけて噛み砕いてからでないと…

そうなんですか? 今までそんなこと誰も言ってくれませでした! 今までは沈黙の意味がわからなかったけれど、そういうことだとわかれば、それで十分です。フィンランドまで来たかいがありましたよー。

あのときは無我夢中でしたが、このエピソードは素朴で温かいフィンランド人気質をよく表していると思います。フィンランドには、こういう対話が自然に生まれる土壌があるんですね。おかげで、帰国後は、コミュニケーション論の講義中も、市民のためのワークショップの期間中も、ゼミのメンバー募集のオフィスアワーの最中も、「議論の十字」を取り上げるときの意識がずいぶん変わりました。いい意味で。
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by tomac | 2007-10-11 17:55 | わくわくフィンランド

■裁判員制度と、議論ワークショップ

ご存知のとおり、市民が司法の判断に参加する裁判員制度は2009年5月までの実施が決まっています。裁判員に法律の知識が必要なのはもちろんですが、知識があっても、議論する力が欠けていたら、ただの形式におわってしまいます。

日本の社会では、あらかじめ結論が決まっている形式だけの議論というのはめずらしくありませんが、ひょっとすると、裁判員制度に期待されているのも、形だけのパフォーマンスなのでしょうか…?

一小市民としては、そんなものにいちいち呼び出されて長期間拘束されたくないのですが。

私は司法の専門家ではないので、制度そのものについてあれこれいうつもりはありません。ただ、市民による議論を本当に成立させたいと思うのなら、そのための仕掛けが必要ですよー!と声を大にして言いたい。

ただ人を集めて、議論してください、といえば議論が展開すると思っているとしたら、ちょっと楽観的すぎます。たとえば、テレビでよく見る討論番組などはたいてい台本がありますし、もともと意見をいうのが好きな人ばかりが出演しているのですから、一般市民が無作為に選ばれる裁判員制度とは比較の対象になりません。

そんな問題意識から、これまでの研究成果をより汎用性の高いものにするために、一連の学びのプロセスをワークショップという形でコンパクトにまとめたい、と思うようになりました。

今回は、おかげさまで、初めての試みであったにもかかわらず、たいへん好意的な評価をいただくことができました。ひとえに、企画の段階から建設的な提案をしてくださった草野さんの熱意と、高校の事務職という立場から中等教育に従事されているみなさんの意識の高さがあってこその成果だと、ありがたく思っております。

ただ、冷静にふりかえると、当然ながら改善の余地は大いにあって、もしまた機会があれば、次はこうしたい、と思う部分が具体的に浮上しています。

そういうわけで、心当たりがおありの方がいらっしゃいましたら、ぜひお声をかけてください。日本全国どこへでも参ります。

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by tomac | 2007-10-08 19:38 | やわらかい議論ワークショップ

■市民のための議論ワークショップ

●市民のための議論ワークショップ●を無事に終えることができました。

写真から、ワークショップの雰囲気だけでも伝わるでしょうか…?

■まずは、グループで十字をつくり、b0046050_10504584.gifb0046050_10505747.gif
b0046050_10525094.gifb0046050_10523740.gif


■次に、各自が分子を生成し、その後、化学反応を起こします。b0046050_1058298.gifb0046050_10553244.gifb0046050_10554464.gifb0046050_10555729.gif

■反応前と反応後です。
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■分子と原子の化学反応をもとに、さらに参加者が議論を展開していきます。みなさん真剣に議論されたので、予定の時間をオーバーしました(!)


■ふりかえり
市民対象のワークショップというのは初めての試みでしたので、やってみないとわからないことがたくさんありましたが、おかげさまで、貴重な学びの機会となりました。

この研修会を企画された草野さんから最初に、「事務職の方は普段学ぶ機会がほとんどありません。義務で参加した人たちにも何とか、『楽しかった』と思って帰ってもらいたいのです」というご助言をいただいたので、期間中はそのことを何よりも優先させました。

たとえば、予定していたメニューを削ってでも、一つひとつの化学反応について丁寧にじっくりと議論する、という判断ができました。普段はなかなかこの判断ができませんが、参加者が楽しそうに学び合っていると私自身も楽しいんだ、ということに気づきました。今後はこの発見を普段の授業にも活かしていきたいです。

ちなみに、これまで兵庫県といえば、西宮(甲子園)と神戸くらいしかイメージできなかったのですが、2日間、県内の各地から集まられたみなさんと濃い時間を共有して、兵庫県がぐっと身近に感じられるようになりました。
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by tomac | 2007-10-04 11:26 | やわらかい議論ワークショップ
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